小さい頃からサザエさんが大嫌い
磯野家では時々、みんなで夕食が終わった後に、波平とマスオさんが晩酌みたいのしてて、台所でフネやサザエさんが「お酒のツマミこれしかないわよ」みたいな会話をしてた。
夕食の後に、何か食べ物があるなんて凄いと思ってた。
幼い私は、磯野家はお金持ちの家なんだと思ってた。
玄関は広いし、黒電話が置いてある廊下は長いし、子供部屋があるし、応接間もある。
台所は独立してるし、裏口扉もあるし。
あと、フネはいつもきれいな着物着てる。
サザエはいつも変な頭してる。変な頭なのにスカート履いてる。
朝ご飯があって給食があって夕ご飯があって
帰ればいつもご飯があって
サザエがカツオにプリプリしながら学校の様子を聞いたりして。
わかめはパジャマが一番健全な服だと思うけど。
とにかく私の家にはなかったものだらけで
特に、雷を落とせるという波平がいなかったから欲しかった。
幸せな家族を見て落ち込んだ。
どうしてウチはそういう家族じゃないのかな?って考えたけど
やっぱり波平がいないからだと思った。
違う波平はいたけど、ほとんど家に帰ってきてなかった気がする。
部屋も散らかり放題だったと思う。
晩御飯はパンの耳を揚げたやつ。ラスク?
パン屋さんにいって、タダで分けてもらえる「パン耳詰め合わせ!」
これを受け取りに行くのが私の役目だった。
くれるパン屋のおばちゃんはとても優しいのに、私は恥ずかしくて仕方なかった。
お母さんはどうして一緒に来てくれないんだろうって、いつも思ってた。
フネならきっと、一緒に来てくれたのにって思ってた。
どうして、私はいつも、お腹空いてるんだろうと思っては、お腹すく自分が悪いって
思ってた。
これじゃ足りないよ~、という弟と妹に自分の分を分けてた。
「みんなで分け合って食べたら幸せ」というけれど、私は未だに、自分一人で食べられる幸せを感じている。
サザエさんが嫌いだったんじゃない。
「これが一般家庭だよ」というのを見せつけられて、悲しかった。
カツオみたいな兄ちゃんが欲しかったなぁ。